大阪地方裁判所 平成6年(ワ)4200号 判決 1995年7月13日
原告
太田佐代子
ほか一名
被告
富士運輸株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは、連帯して、原告太田佐代子に対し金一〇六五万六八八一円及び内金九六九万六八八一円に対し平成六年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連帯して、原告太田圭祐に対し金七四万六七二二円及び内金六八万六七二二円に対し平成六年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告太田佐代子と被告らとの間では、これを一〇分し、その二を被告らの、その余を原告の負担とし、原告太田圭祐と被告らとの間では、これを一〇分し、その三を被告らのその余を原告の負担とする。
五 この判決は、第一項、第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告らは、連帯して、原告太田佐代子に対し金五二五五万二八六七円及び内金四七五五万二八六七円に対する平成六年五月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連帯して、原告太田圭祐に対し金五〇四万六九二六円及び内金四五四万六九二六円に対する平成六年五月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、普通乗用自動車に普通貨物自動車が追突したため普通乗用自動車が押し出され、前の普通貨物自動車に衝突した事故であり、普通乗用自動車に同乗していた原告らが傷害を受けたとして追突した普通貨物自動車の運転者と所有者を相手として損害賠償請求した事案である。
一 争いのない事実
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(1) 発生日時 平成三年八月三〇日午後一〇時二〇分頃
(2) 発生場所 奈良県山辺郡山添村大字遅瀬九五〇番地先路上
(3) 関係車両
太田均運転の普通乗用自動車(尾張小牧五六ほ三三九三、以下「原告車」という。)
被告中村稔(以下「被告中村」という。)運転の普通貨物自動車(奈良一一い八八八、以下「被告車」という。)
(4) 事故態様
太田均運転の原告車が、進行方向の道路が渋滞のため停止しようとしたところ、後方より進行してきた被告中村運転の被告車が原告車の右後部に追突し、原告車は右衝撃で左前に押し出され、左側車線に停止中の訴外前田久幸運転の普通貨物自動車の右後部に原告車を衝突させ、原告車に同乗していた原告太田佐代子(以下「原告佐代子」という。)、原告太田圭祐(以下「原告圭祐」という。)らに傷害を負わせたものである。
2 責任
被告富士運輸株式会社は、被告車の所有者で、かつ被告中村の使用者であり、本件事故は被告中村の業務遂行中の事故であるので、被告中村は民法七〇九条、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条の各責任がある。
3 損害の填補
原告佐代子は被告らから三三万〇八九七円、近畿交通共済協同組合から四八万二三〇八円、自賠責保険から一二七五万の各支払いを受けている。
原告圭祐は、被告らから七〇万円、近畿交通共済協同組合から二五万三一六八円の各支払いを受けている。
第三 争点
一 原告佐代子の逸失利益
1 原告の主張
原告佐代子は、自賠責保険の後遺障害認定において、後遺障害別等級表第七級第一二号「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」、同一二級一二号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に各該当し、併合して六級であると認定されている。
原告佐代子には右以外に後遺障害別等級表七級四号「神経系統の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない」、同一二級一号「一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの」、同一二級二号「一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」にそれぞれ該当する後遺障害が残存している。
従つて、逸失利益の算定については、自賠責保険の認定した等級だけでなくその他の障害も併せて考慮すべきである。
そうすると、原告佐代子の労働能力の喪失率は、本件事故の翌日である平成三年八月三一日から一年間は一〇〇パーセント、その後六七歳までの三三年間については六七パーセントである。
女子の顔面醜状も家事労働に支障が生じるものであり、原告佐代子は、現在の症状からみて、服する労務が相当に制限され、働くとしても軽易な労働しかできないので、家事労働以外での勤務は難しいものである。
家事労働も、原告佐代子の自らの努力と家族の協力でしているのであり、家事に従事できるからと言つて逸失利益がないとはいえない。
2 被告らの主張
原告佐代子は、専業主婦であり、顔面醜状があつたり、左瞼が若干下がり気味になつていても、家事労働をするについて支障が生じることはない。原告佐代子の矯正視力は右が一・五、左が一・〇で通常人と変わりなく、両眼を矯正すると複視が生じるので、左眼を矯正せずに主に右眼だけを使うことによつて、複視による障害を避けているが、このことによつて日常生活に格別の不都合は生じていない。また、頭骸骨の一部にシリコンを埋め、当該部分が他と接触しないように配慮しているが、このことにより日常生活において特段の支障は生じていない。
以上によれば、原告佐代子の後遺障害については、家事労働について特段の支障が生じている訳でなく、せいぜい、左眼の矯正をせず右眼を主に使つているため生じると推認される疲労、頭痛、肩こり程度のものであり、将来においても労働能力の喪失が高度の蓋然性をもつて予測されるものでないので逸失利益は存在しない。
二 原告圭祐の後遺障害
1 原告の主張
本件事故により原告圭祐の頸部には、長さ八センチメートル、六センチメートル、三センチメートルの各瘢痕及び左目下には一・五センチメートル×一センチメートルの色素沈着があり、自賠責保険では後遺障害別等級には該当しないとされたが、右瘢痕には相当の慰謝料が認められるべきである。
2 被告らの主張
原告圭祐の左目下の色素沈着はそれ自体明らかでなく、瘢痕も頸部にあり外から見えにくい部位にあり、原告圭祐は本件提訴時にはまだ一〇歳であり、成長してゆくに従い痕跡も消滅することが予想され、慰謝料が認められるような後遺障害ではない。
第四 争点に対する判断
証拠(甲一乃至二一、二二の一乃至六〇、二三の一乃至二四、二四乃至五二、検甲一乃至三、乙一、原告佐代子本人)によれば、以下の事実が認められる。
一 本件事故の経過
本件事故は、前記一争いのない事実(4)事故態様記載のとおりであり、被告車は時速九〇キロメートルで進行していたこと、太田均運転の原告車を前方に認めながら減速などの措置をせず漫然同一速度で進行して約二五・八メートル先に原告車を認めて急制動の措置を講じたが間に合わず、時速約六九キロメートルの速度で被告車を原告車に追突させたものである。
本件事故により、原告車に乗つていた原告佐代子は、頭部・顔面打撲、挫創、頭蓋骨陥没骨折、脳挫傷、気脳症、血気胸、肋骨骨折、外傷性動眼神経麻痺、顔面神経麻痺、顔面・頸部瘢痕拘縮、ブラキシズム、左上眼瞼下垂、左眉毛下垂、眼球運動異常などの傷害を受け、原告圭祐は、頸部瘢痕、左外眼角外傷性刺青下顎骨骨折、顔面外傷などの傷害を受けた。
原告佐代子は、前記傷害にて事故日である平成三年八月三〇日から同年一〇月一二日まで岡波総合病院に入院し(入院日数四四日)、さらに平成四年八月一二日から同年八月二二日まで住友病院に入院した(入院日数一一日)。
通院としては、大阪厚生年金病院脳神経外科に平成三年一〇月一五日から平成五年二月二日まで(実通院日数八日)、同病院眼科に平成三年一〇月一七日から平成四月一二月一日まで(実通院日数二六日)、同病院歯科に平成四年四月四日から平成五年二月二八日まで(実通院日数一二日)各通院し、住友病院形成外科に平成四年二月四日から同年一二月二四日まで(実通院日数二二日)通院し、平成五年二月二日症状固定した。なお原告佐代子は、上川整骨院に平成四年二月五日から同年一一月三〇日まで(実通院日数一九〇日)したことが認められる。
原告圭祐は、事故日である平成三年八月三〇日から平成三年九月三日まで岡波総合病院に入院し(入院日数五日)、大阪厚生年金病院歯科に平成三年九月三日から同年一〇月一九日まで入院し(入院日数四七日間)、住友病院形成外科に平成四年八月一二日から同年八月二二日まで入院し(入院日数一一日)、同病院に平成四年四月二日から同年一二月二四日まで通院し(実通院日数五日)、同日症状固定したものである。
二 損害額(括弧内は原告の請求額である。)
1 原告佐代子について
(一) 治療費(六一万四四九七円) 六一万四四九七円
原告佐代子の住友病院、厚生年金病院、上川整骨院での各治療費については、当事者間に争いがない。
(二) 付添看護費(二四万七五〇〇円) 二四万七五〇〇円
原告佐代子は、前記の傷害を受けその傷害の程度から付添看護の必要性が認められ、一日当たり四五〇〇円が相当であるから、二四万七五〇〇円が必要な入院看護費である。
(三) 入院雑費(七万一五〇〇円) 七万一五〇〇円
原告佐代子は五五日間の入院期間中、一日あたり一三〇〇円の割合により合計七万一五〇〇円の入院雑費の損害を被つたと認めるのが相当である。
(四) 通院交通費(一九万三六八〇円) 一二万六五七〇円
原告佐代子は、平成三年一一月二九日から平成五年二月一六日までタクシーを利用したとして右期間のタクシー料金を請求するが、原告佐代子がタクシーを利用したことは証拠によつて認められるものの、傷害の程度から、本件事故による損害としての交通費は平成四年八月二七日までのタクシー料金一二万六五七〇円であり、右以降の通院交通費は慰謝料において考慮する。
(五) 文書費(六〇〇円) 六〇〇円
事故証明書料として六〇〇円を請求するが相当である。
(六) コンタクトレンズ代(二万円) 二万円
コンタクトレンズが必要と認められる。
(七) 逸失利益(四八一六万八二九五円) 一〇三七万九四一九円
本件事故による後遺障害として、自賠責保険後遺障害等級認定に於いて、自賠責法施行令二条別表後遺障害等級の七級一二号「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」、同一二級一二号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当し、併合六級と認定されたことが認められる(甲四八)。
原告佐代子は、右以外に後遺障害別等級表七級四号「神経系統の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない」、同一二級一号「一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの」、同一二級二号「一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」にそれぞれ該当する後遺障害が残存していると主張する。
しかしながら、原告佐代子は、本件事故後肩凝りや頭痛、疲れを覚えることがあると供述しているが、右症状が「神経系統の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」とまでは認められない。
また、眼については、一二級一号の「一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの」とは眼球の調節障害は調節力が通常の二分一になつた場合であり、眼球の運動障害は注視野の広さが二分一になつた場合であるが、原告佐代子にはそのような障害はみられず、また一二級二号「一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、開瞼時(普通開瞼したとき)に瞳孔領を完全に覆うものまたは閉瞼時に角膜を完全に覆いえないものをいい、本件各証拠によつても原告佐代子に右の症状は認定できない。
原告佐代子は逸失利益として、(1)本件事故から一年間の休業損害と(2)本件事故の一年経過後から就労可能な六七歳までの後遺障害逸失利益を請求しているので、各別に判断する。
(1) 休業損害(三四七万七二〇〇円)二七四万三四八八円
原告佐代子は専業主婦であり本件事故当時三三歳であり、本件事故による障害は平成五年二月二日に症状固定しているので、同日までを休業期間として労働能力の喪失率を算定する。休業期間は平成三年から平成四年に渡っているので平成四年の賃金サンセス産業計・企業規模計・学歴計女子労働者の平均賃金によることとし、右によれば原告佐代子の年齢に該当する賃金は三四七万七二〇〇円であり、右金額を三六五で徐すると一日当たり九五二六円となり(小数点以下切り捨て、以下同じ)、右金額を入院期間五五日には金額、通院期間四六六日については半額を各休業損害と認め、右各金額を加算すると休業損害総額二七四万三四八八円となる。右算式は次のとおりである。
(3477200÷365)×55=523930
(3477200÷365)÷2×466=2219558
523930+2219558=2743488
(2) 逸失利益(四四六九万一〇九五円) 七六三万五九三一円
原告佐代子は、後遺障害として七級一二号「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」として認定されている。原告佐代子は事故当時から夫と子供三人を有する専業主婦であり、右外貌醜状のため主婦としての労働能力が低下しているとは認められないが、右醜状が整形手術により改善されることが見込まれるものでもなく、原告佐代子は事故当時三三歳と若く、将来勤務する可能性も否定できない。
原告佐代子は、後遺障害として一二級一二号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すると認定されており、前記外貌醜状と併せると労働能力の喪失率は二割相当であり、右労働能力の喪失期間は一五年と認められ、右認定に基づいて逸失利益を算定すれば、次の算式のとおり七六三万五九三一円である。
3477200×0.2×10.980=7635931
(八) 入通院慰謝料(二〇〇万円) 一三〇万円
原告佐代子の本件事故により前記認定の傷害を受けたが、入通院慰謝料として一三〇万円が相当である。
(九) 後遺障害慰謝料(一〇五〇万円) 一〇五〇万円
原告佐代子の後遺障害慰謝料は一〇五〇万円が相当である。
3 小計
以上原告の損害額合計は二三二六万〇〇八六円である。
4 損害の填補
原告佐代子は被告らから三三万〇八九七円、近畿交通共済協同組合から四八万二三〇八円、自賠責保険から一二七五万の各支払を受け右支払額合計は一三五六万三二〇五円であることは当事者間で争いがないので、右金額を損害の填補として差し引くと残額は九六九万六八八一円となる。
二 原告圭祐の損害
1 治療費(七二万六七九〇円) 七二万六七九〇円
原告圭祐の住友病院形成外科の治療費が七二万六七九〇円であることについて当事者間に争いはない。
2 入院雑費(八万一九〇〇円) 八万〇六〇〇円
入院雑費については、一日当たり一三〇〇円が相当であり、入院期間六二日間について右金額が認められ、入院雑費は八万〇六〇〇円である。
3 付添看護費(二八万三五〇〇円) 二二万九五〇〇円
原告圭祐は、六二日間入院したが、子供であるので近親者の付添が必要と認められ、付添看護費は一日四五〇〇円が相当である。原告圭祐は、住友病院形成外科に平成四年八月一二日から同月二二日まで一一日間入院したが、原告佐代子も同病院整形外科に同期間入院しており、付添看護は一人で足り、既に原告佐代子で損害として認定済みであるので、右の入院期間は原告圭祐の分としては認めない。入院五一日として付添看護費は二二万九五〇〇円が相当である。
4 文書料(三〇〇〇円) 三〇〇〇円
文書料としては、三〇〇〇円が相当である。
5 入通院慰謝料(一〇〇万円) 六〇万円
原告圭祐は、本件事故により合計六二日間入院し、実通院日数は五日である。右の治療経過からすれば、入通院慰謝料は六〇万円が相当である。
6 後遺障害慰謝料(二二〇万円) 〇円
原告圭祐の醜状痕については、線状痕は頸部であり外部から見えにくい部位にあり、後遺障害慰謝料が発生するものではない。
7 小計
以上によれば、原告圭祐の本件事故による損害は一六三万九八九〇円である。
8 損害の填補
原告圭祐は、被告らから七〇万円、近畿交通共済協同組合から二五万三一六八円の各支払いを受けているので右金額を前記損害額から差し引くと残額は六八万六七二二円となる。
9 弁護士費用
原告佐代子の請求についての弁護士費用は、本件事案の程度、事件の経過から九六万円が相当である。
原告圭祐の請求についての弁護士費用は、本件事案の程度、事件の経過から六万円が相当である。
第四 以上によれば、原告佐代子の請求は、被告らに対し連帯して金一〇六五万六八八一円及び内金九六九万六八八一円に対し平成六年五月一五日より支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があり、原告圭祐の請求は、被告らに対し連帯して金七四万六七二二円及び内金六八万六七二二円に対し平成六年五月一五日より支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があり、主文のとおり判決する。
(裁判官 島川勝)